Dear,MY GOD|朝田ねむい【全1巻】
祈っては捨てられてカルト宗教入りしてる青年リブと、リブを救済しようとする神父ロースのお話。
表題作のDear,MY GODの他、話す鉢植えと暮らす不思議なお話「はなぐらし」も収録されています。
信仰の話に、とても弱い。
すがるような信仰心も好きだし、純粋過ぎて狂気すら感じるような信仰心にもすこぶる弱い。
信仰の話が好きなのは、そこに救済がセットであるからです。
で、Dear,MY GODで描かれるのはそのいずれも。
Dear,MY GODですっかり味をしめて朝田ねむいさんの作品も買い漁っているんですが、
どれも何と言うか、骨太。
骨太、という単語が真っ先に思い浮かんでしまってどう骨太なのかまだ整理出来てないんですが
地に足がついているというか、重力があるというか、
うまく言葉にならないままに何となくしっくり来ているのが「骨太」。
また他作品について感想を掘り下げながら骨太感を整理してみよう。
ちなみに、Dear,MY GOD 表紙の副題に書かれているのが、
Prayer for the salvation of souls.
ふん゛ぬ゛う゛。
およそのあらすじは、冒頭で書いた一文から想像出来るものだと思いますし、
おおむねその通りだとも思います。
カルト宗教に心酔していた青年が神父様によって救済を得る、という感じの。
ただ、Dear,MY GODで一番素晴らしいと思うし好きなのは、
この救済を得ていくステップの描かれ方。
救済なんて一言で済ませてしまうのは失礼なほどに、根深く繊細な描かれ方がすごく良い。
信仰は、何一つリブを救ってはくれなかった。
一つ目の神様にとってリブは生贄であり供物だったし、
二つ目の神様はかすかな安らぎと引き換えに、姉を奪っていった。
皮肉にも、寝床と役目を与えて、過酷過ぎる現実を忘れさせてくれたのは薬物で信者を増やし金品を巻き上げるカルト宗教。
神様の姿なんてはじめから無かったのに、そこに真っ黒い神様を見出すリブがつらい。
リブの身体には3箇所、タトゥーが入れてあります。
そしてそのうち二つは醜く潰されてる。
それはリブが信じて裏切られてきた神様たちの姿で、最後の一つだけがまだ潰されていない。
またこの神様が、ハート型をしているんだ。
丁寧に FLYING LOVE MONSTER なんて書いてある。
再三言うけど、このカルト宗教には御本尊なんてありません。
でもリブにはこれが見えた。そしてロース神父にも見えた。
愛の形をした、真っ黒で二つの目だけが爛々と自分たちを見下ろしている神様。
それを見たら、リブが本当に必要としてるのは神様じゃないことくらい、すぐに分かるってなもんです。
そこに救済者たるロース神父が颯爽とあらわれて、
リブをカルト宗教から抜けさせ、社会復帰させて救い出して……っていうだけの話に終わらなかったところが、すごく良い。
リブを翻弄し続けてきた信仰心が、まっすぐ神父様に向かった時の、あの絶望にも似たループ感ときたら…!!
4つ目の神様としてロース神父のタトゥーを入れようと、嬉しそうに言うリブの根深さ。
この根深さが堪らない。
いつでもリブは敬虔なる信徒で、哀れな子羊ちゃんで、
神様の所有物であることを示すようにその身体に神様を刻んで、裏切られて、潰してきて、
まるでその信仰心の延長上にあるかのように見えたロース神父への行いが、
それが「ああ、リブはただロースが好きなのか」ということに気付いた時の、この、泣きたさ。
そういう表現しか知らないのだと分かって、でも今やっと違う表現を得ようとしているのだと気付いた時の、
清々しさとも言えない胸が締め付けられる感覚。
これを100Pで表現出来るって凄まじい。
リブの話で終わってしまった。
もう神様の子だった子羊ちゃんがやっと人になったのが堪らなくてさ……。
収録されている「はなばなし」も、形は違うけれど神様が出てきます。
内包されている神様との対峙シーンには息を呑むような迫力があって、こちらも堪らんのです。
ちなみに朝田ねむいさんの空気感を手っ取り早く知りたいという場合には、短編で出されてる「ハレの日」がすごく良いです。
少しコミカルで、登場人物たちのかかわり合い方や、言葉のかけ方、向かい合い方がすごく凝縮されてる感じ。
アンソロジー収録の単話配信なので、まだrentaさんにしか無いのかな。
で、大当たりかよ……って目頭抑えたのは「loved Circus」でした。
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