鳥を愛した獣|いもあん【全1巻】
ほわほわと鈍く生きている、と言うよりは
本人も認めるように「どこか壊れていないといられない」ような木守として日々過ごしている鳥と、
肥料から奇跡の生還を果たした獣のお話。
amazonで探してみたら電子書籍版のみ配信されている模様です。
擬人化とは少し違う印象かな。
なんというかこの作者さんの作品は全体的に
「現代日本語として意訳するならばこの言葉」という感じがします。
形状はともあれ、狩って肉を食う生き物と、食われる側として果物を食う生き物の愛情交流のお話。
子守をしながら糧を得て、鳥でありながら自由さとは程遠いながらも安穏とした暮らしが
なんとも言えずに不思議なものです。
木の外ではいとも普通に弱肉強食がまかり通り、
とはいえ木の内は安全ではあってもまさに鳥かご状態。
でありながらも、諦めるでもなく淡々と受け入れながら過ごしているものだから
うっすらこちらが感じる残酷さもついつい薄まってしまう。
だって生活風景がすっごい穏やかなんだもの!!!
鳥は平和に「あさだ!あさだー!」って毎朝水浴びどぼーんしては木の実ぽりぽりしてるし
獣は獣で「鳥ってああいうもんなのか……」と珍しい生き物見てるような目してるし
穏やかだよう……和むよう……。
でも、細々とした色々なものが琴線を叩き続けていて定まらない。
何となく、「あ、ここで好きになったのか」とか
「それは多分、寂しいんじゃないかな」とか
読みながらじわじわと感じるものはあれども、
情熱的なモノローグや衝突が描かれている訳ではない。
悲壮感に溢れてる訳でもないし、ほんとうに淡々と積み重なっていくのです。
でももう、何が好きかって、ここまでこんなに素晴らしい表情で「堪らなく好きだ」と表現してくれるなんて。
あの目が合った瞬間に笑った顔があまりにも素晴らしすぎて、もう伏したい。
好きだ愛してると言うよりも、溢れ出るような愛しさが表現されている素晴らしい表情だった。
それは多分内面の描写が少なくて、あくまで「この世界のこの定点カメラに映った彼ら」というスタンスが見えるからだと思う。
だからこそ余計に、少しずつ積み重なって、そして溢れた瞬間にとても心が揺さぶられる。
何かこの空気感や世界観がすごくクセになってしまって、
いもあんさんの作品を一気に買い漁ったんですが
終始「積み重なって積み重なって最後に勝手に溢れ出す」感でした。
もう! 弱いんだよそういうの!! 許容量小さいからすっごい簡単に溢れだすの!!!
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