ハレの日|朝田ねむい【全1巻】
アンソロジーから抜き出された単話配信作品です。
作家でゲイのお父さんと、息子さんと、編集者として訪れる人たちのお話。お母さんもいるよ。
お父さんと編集者、お父さんと息子、息子と編集者 のそれぞれの関係から行く末まで、
44Pの中でものすごく綺麗に、そして幸福にまとめられています。
好きなシーンを思い出すだけでちょっと思い出し泣きしそう。
もうどこが好きって、このページ数の中で好きなところが多すぎて多すぎて。
優しいというか、愛しいというか。
基本的には作家のお父さん視点で物語が進んでいくのだけど
自分のほろ苦い過去と、その過去を目の前でほろ苦く初々しく再現している息子・ナツキくんと
またその見つめる目線の切ないこと、優しいこと。
お父さんが見ているのはナツキくん と、ナツキくん を通した過去で、
でもナツキくん が見ているのは未来というところもすごく好き。
健やかに素直に、見返りを求めるだけではなくて、
相手を慮って自分自身に区切りをつけられるナツキくんが
どれだけ丁寧に育てられてきたのか感じられるところも好きだ。
そしてそれだけ丁寧に育てられてきた子であっても、
自分のことを少なからず恥じたり、孤独感に苛まれていたのだろうと読ませてしまうのが、
本当にすごくて素晴らしいと思うんだ。
誤解がないように付け加えるならば、志向そのものの是非や扱いではもちろん無いし、そういった描写でもありません。
さらに言うなら、悲壮なシーンでもないし、むしろどんでん返しに近い救われるシーンです。
だからすごい。
特にそういう事柄にとてもナーバスでデリケートになりがちな年代だからこそ
他と比べてしまったり、違和感をたくさん抱えてきたのだろうと、
泣き崩れるわずか数コマのナツキくんの姿と、素直に恋い慕っていたナツキくんの姿がオーバーラップしてしまって、こっちも泣く。
ハレの日は、すごくこう、
「親と子」と「大人と子ども」がキレイに融合した作品だなぁと思う訳です。
辛かったことを知っているから、大人はみすみす傷付くようなことはしなくて良いじゃないかと思ってしまう。
けれどそれに対する子どもの瑞々しい逞しさったら。
自分と似ていながら自分とは違う答えを出した子の眩しさったら。
そして、この子が晴れて生きていくためにここまで来たのだと言う大人の、慈しみ深さったら。
どちらに感情移入出来るかで、また違う物語として読めるんだろうな。
amazonさんとKindleさんでは配信が見付けられなかったのだけど、
ぜひこれもまた短編集として書籍化して欲しいなあ……。
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