267夜~2人だけの最後の道行き~|いもあん【全3巻】
柱で支えられてる世界で、柱を治す「修柱師」のチユと、「楽者」のイシの向かう旅の話。
本当に、この人の描く風景や世界が好きだなあとしみじみ思う。
あと言葉。
いもあんさんの作品にはじめて触れたのが『267夜』で、
このしんしんと降り積もるような言葉とセリフがあまりに心地よくて驚いたんだ。
しか描かれるのは、最深部へ向かう旅路の風景のみ。
ただひたすら、地下をゆっくりと降りていく箱の中で過ごす267夜の風景のみ。
作者さん自身もそれ以上の何かをということはなく、ただ過ごしている様子を描きたかったのだと書いてらっしゃいます。
穏やかで静かな、鮮烈な出来事と言えば柱へ到達した時の開けた感覚はあるけれど、
本当にただひたひたと夜を過ごし続ける何とも不思議な作品だなあ。
それでいて、最後にはうっかり泣かされてしまうんだ。
イシとチユの穏やかな対話がしんしんと降り積もっていくものだから、最後には積もったものが溢れてしまう。
この旅路自体がすでに死出の旅であるっていう暗い予感との対比がまた胸にくるんだよ。
それでも悲壮感は無く、役目を果たしにいくチユの姿と、
長らく焦がれた人とのハネムーンのような旅を過ごすイシの姿が本当に穏やかで
ふたりが穏やかであればあるほどに、
これが戻ることのない旅であることを何故か私だけが思い出してものすごく切なくなっている気がする。
そしてまたこの世界の、残酷なこと。
柱に人身御供のように捧げられることなんかではなく、
それよりもっと根深い、成り立ちそのものがとても美しくて、残酷だ。
本能で柱に焦がれる修柱師を、最深部まで送り届けるために人とともに行く旅路なんだ。
願いを引き止めて戻して、最後の最後、柱を治したならば
同行者はどうあがいたとしても戻れない柱の底に置き去りだ。
でもこれも分かってんだよ!
そうやって残酷だって切ながってるのが私だけなのもー!!
ふたりはふたりで満足して旅路を進んでるんだよー!
だから余計に切ないんだよー!!!!
総じて私がいもあんさんの作品に感じるのは、この心地良さなんだ。
会話で紡がれる言葉のセンスも好きだし、この世界で過ごす彼らの姿を眺めていられるのも好きなんだ。
前に書いたかもしれないけど、まるで「定点カメラから見た彼ら」のような感覚がある。
そして時間を置いて読み返す度に、新しい何かが見えるようでやっぱり手元に置いておきたくなる。
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