雨降らしの森~この世界で貴方と~|いもあん【全2巻】
舞台は異世界。現代から迷い込んだ「迷い人」と、迷い人をもてなす「世話人」のお話です。
いもあんさんのこの迷い人シリーズも好きで追いかけてます。
迷い人シリーズの中でも雨降らしの森は、
異世界に飛び込んだリーマンの迷い人が、世界に馴染んでいく様子が本当に丹念に描かれています。
言葉を覚え、歌を覚え、慣習を覚え、やがて仕事をはじめてその世界の中で「生きて」いく。
真っ向から、真摯に自分の来た世界で出来ることを始めて向かい合っていく様子がすごくすごく好き。
この、違う世界の中で自分を変えながら丁寧に順応していく姿。
世界の異物だからこそ特別である「迷い人」でなくなった時に、自分は何者になるのかという姿勢。
この作品の最高なところは、異世界 居心地 良い。 ってところなんですよ。
そう、居心地がとても良い。
とてもとても大切にしてくれる。喜んでくれる。
自分がいることを有り難いと言ってくれる人がたくさんいる。
実際それらは当たっていて、迷い人である主人公の能力は多くの人の役に立ち、多くの土地を助けてきている。
しかしそれは、特殊な「迷い人」だからであって、それこそ突然降って湧いた幸運装置のようなものです。
では自分が本当にここにあるためにはどうしたら良いのか、
迷い人ではない自分がどうしたらこの世界に向かい合えるのか、その方向に舵を切った主人公の姿がすごく良い。
それは返礼の意味もあるだろうけど、そんな綺麗事だけではなく、
フィフティ・フィフティの関係性を持って世界にいるために必要なことで、この描かれる揺らぎが本当にすごく良い。
特別なものであることが嫌な訳ではなくて、特別であるための理由がないと不安なんだ。
逆に特別でなくなった時のための理由もないと不安なんだ。
その淋しさや空虚さを埋められるだけの理由が手元にないと、不安なんだ。
またこのね、この迷い人と世話人の関係がすっごく良い。
そもそも根本的に迷い人は世界が違うのだから言葉は通じない。
でもはじめに出会ったひとりだけは、意味が通じる。
だから最初のひとりが世話人となって迷い人の世話をする、というのが仕組みです。
迷い人になるのも偶然だし、世話人になるのも偶然。
迷い人だから歓待される。世話人だから親しくなる。
分かりやすい枠組みと関係性だから「では他の人が偶然そうなっていたら」と考えた途端に、好意も行為も突然頼りないものになってしまう。
なかなか意地の悪い問答でもあります。
では、そこを通して個人で向かい合うなら?
枠組みや仕組みを通り越した先で向かい合うにはどうしたら良いのか。
そしてこの作品の醍醐味であり、一番好きなのは、エンディング。
エンディング。エンディングが素晴らしい。
ラスト数ページで一気に持っていかれました。
迷い人と世話人っていうマンツーマンの関係だけではなく、
そのベースにある世界の着地点として、すごくすごく素晴らしい。
理由を求め続けて、着実に実績を重ねてきて、
ある理由も向かい合えるだけの理由もしっかり手元にたぐり寄せた上でのあのエンディング!!
ネタバレになっちゃうから言えないよ!!!
愛してるからオールOK、君が必要としてくれるならそれでOKなんて言えない弱さと
向かい合うための理由を着々と重ねていく強さが、とても愛しい。
どうやら電子書籍版のみ配信されている模様。
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