Season|麻生ミツ晃【全1巻】
すっかり没落して母子暮らしをしている青年・東くんと、かつて受けた恩を返しに訪れた元使用人の青年・松岡さんのお話。
メールはおろか携帯電話もない、連絡は手紙・移動は列車で、という時代のお話でもあります。
作者さんの自己紹介に書いてある「かかる手間を惜しまない恋」という謳い文句もとても好き。
SEASONは題名の通り、春夏秋冬の4編で構成されていて、
春は出会いと種まき、夏に一気に生い茂り、秋は収穫とそして生い茂りすぎたものものらの収束、
冬は新たな次の春に向かっていてっていう、この季節と共に巡る構成もすごく良い。
そして、この作品は夏からが本領発揮だと思ってる。
で、
SEASONでとにかく好きなのが、
幼い頃に受けた些細な恩をただひとつの寄る辺に、それなりに悪事にも手を染めて成り上がってきた人
というところから、さらに数段踏み込んだ描写。
春の編で松岡さんは、
穏やかで献身的で気遣いに溢れ、そして一線を引いて恩返しに徹する姿として描かれます。
そこから「では、本当の彼の姿は?」と、東君が松岡さんの元を訪れるのが夏の編以降。
こっからの展開ほんと好き……。
夏編すごく好き……。
松岡さんが何故恩を返すのか、そのきっかけもすごく好きなのだけど、
どうやって「恩を返せるまでになったのか」に焦点が当てられていて、
またその経緯の追い方が素晴らしいんだよ。
その恩を返すためにしてきたことは、決して良い事ばかりではなく、
むしろ短時間でショートカットしながらのし上がっていくには悪事の方が向いていて、
四方八方から恨みを買いまくり、そしてその生き方は東君の元へ訪れるようになってからも変わらない。
また素晴らしいのは、そういう生き方を松岡さん自身が選んできたのだと描くところ。
誰かのために誰かを踏みつけてねじ伏せてきた。
あの人に恩返しをするためだから、そのためには稼がなければならないから。
そうして恩を免罪符のようにしてきた、と本人に語らせるってすごくないですか。
悪事を現在進行系で進めながらも、それは悪事であると知っている、この二律背反。
だからこそ、自らのことは一切語らず、自分の悪いトコを見せないように・見えないようにしてきたのに
坊っちゃん来ちゃうんだもん。
そしてSEASONでとても好きなのが、この坊っちゃんの思い切り。
本当の松岡探しをしに来たら予想以上に血なまぐさい世界にいることを知り、
そして少なからずその姿を怖いとも思う。
けれど支え続けてくれたのも、与えてくれたのも確かにこの人で、
どちらが表か裏かではなく、ここにあり、ここまで来たそのもの、「それが君だ」とまるごと見据えるこの姿。
良いも悪いも含めて、そして自分で自分の価値を信じられなくなったとしても、
お前の価値は僕が決めるのだと言い切れる東坊っちゃんの太陽っぷりがすごく良い。
SEASONの夏編の凄いトコはな、まだ掘り下げるとこなんだぞ!
あの恩さえ忘れてしまえばきっともっと楽に生きていくことは出来た。
けれど、この葛藤が、自分を人にしてくれたのだと。
これもう最高じゃないですか。
散々やってきた悪いことが、これで良いものになる訳でもないし
別に私自身が悪人に萌える訳でもないです。
ただ、それでも良いのだと言ってくれる人がひとりくらい居てくれたって良いじゃないかとは、とても思う。
松岡さんへ向けた、清濁を併せ持つ君 という姿の描かれ方が、すごく好きなんです。