野ばら|雲田はるこ【全1巻】
落語心中から気になってた雲田はるこさんの作品は、1巻で終わるものからちまちまと買い整えています。
落語心中も1巻の試し読みとアニメでしか見てなかったので、特に1期のあの情念溢れる雰囲気が印象的だったんですが
ものすごく優しい作品描かれる作家さんなんですね……。
なるほど確かに、落語心中も二期のラストに至る様子は、とても優しかったものな……。
野ばらは3組のお話で出来ている短編集です。
バツイチのお父さんと洋食屋の若亭主と、女の子になろうと頑張ってる男の子と女の子がダメな男の子と、
旅人ふたりのお話が納められています。
なんだろう。
いくつか他作品も買って、特に勢いで揃えてしまった「いとしの猫っ毛」なんかもすごくそうなんですが、
しっとりと生きてる人の姿が、しみじみと好きだなあ……。
で、私が一番好きなのは3作目「Lullaby of Birdland 鳥の国のララバイ」。
母親の生まれた街を目指して異国を旅する青年トキオと、
旅先で一緒になった”鳥(バード)”と名乗る青年のお話です。
舞台が異国なので余計にそうなのかもしれないけど、
どこの国と名言されていない世界を旅する姿がすごく幻想的でおとぎばなしみたい。
また二人の旅の理由が良いんだ。
目的地が同じなのに、理由が真逆なのがすごく良い。
亡くなった母の生まれた街を目指してるトキオくんは、自分のルーツを確かめるために旅をしていて、
バードは自分の父親を殺すために旅をしている。
見た目も動機も考え方もまるで真逆のふたりが、旅を通して、
1+1が2になるように、和を成していく様子がすごく好き。
まるでおとぎばなしのように見えるのは、
トキオくんが余りにも許せる人で、バードが余りにも天使のように美しいからなのかもしれない。
父親を殺すために同行人の金で銃を買おうとしたバード。
母親を殺した父を殺すか、自分が死ぬか、そう思いながら生きてきたのだと言うバード。
でもトキオの金は、怖くて使えなかった。
このシーンがまるで懺悔室で滔々と告白する罪人と神父のよう。
この数ページのシーンだけもう何度も読み返してる。
このね、この、
告白と許しのシーンがすごく好きなんだ。
トキオの金だから使えなかったってところがすごく好き。
殺意の有無や、ましてや使ったら困るだろうとか、そういうことではなくて、
トキオの金で人殺しになることが出来なかったバードがあまりに優しすぎるよう…。
信仰の話とセットで好きなのが救済の話で、救われる話がものすごく好きなんです。
それは決定的な盛り上がりであっても良いし、かつてあそこで救われていたのかと思い出すようなものでも良い。
何でこんなに好きなのかって、
そしてトキオとのこの懺悔室のようなシーンがどうしてここまで刺さるのかって
行為を許すことを超えて、そうして過ごしてきたことも丸ごとひっくるめて
ここに居てくれてありがとう っていうのが堪らないんだ。
正解も間違いもなく、それらを超えてここに共に居られることを嬉しく思うっていう描写が好きで好きで。
異国の地の話なので、トキオの話す言葉はどこか少しセリフがかった翻訳文体のようで、
バードの砕けた口調とはまた違ったシンプルでストレートな話し言葉が
しんみりと染みてすごく良いんだよ……。
「Lullaby of Birdland 鳥の国のララバイ」は、おとぎばなしみたいに始まって
おとぎばなしのように、夢のように旅をして、
そして夢から覚めるようなエンディングもすごく心地良いんだ。