花とスーツ|伊東七つ生【全1巻】
表題作になる「花とスーツ」ともうひとつ「白紙」の2編が入っています。
花とスーツは、とある市営公園を舞台にして、
堅物感ある真面目なスーツ姿の蓮池さんと、公園を愛してやまない平岸さんの交流のお話。
もうひとつの白紙は、
行き詰まって離島を訪れた作家先生と、島で暮らす作家志望の青年のお話です。
花とスーツはふたりの「真面目」な姿勢がとても優しくて
これがまた緑あふれる風景の中で繰り広げられるものだから一層柔らかくってね。
で、この表題作もすごく素敵なんだけど、
もうひとつ入ってる『白紙』がとても好きなんです。
読後にじんわりと涙が滲んでくる。じんわりと泣いてしまうんだ。
伊東七つ生先生の作品は何しろ画面が美しい。
そして前の感想の時にも思ったんだけど、物語の中に物語を映すのがすごく上手いと思うんです。
箱庭の話の時にもすごく感じてた。
本軸にある物語の上に、もうひとつの風景がある。
その風景が圧倒的に美しい筆力で、幻想的なのに存在感と説得力を持って描かれるんですよ。
読みながら美しい映像作品を観ているようで、そしてそのもうひとつの風景があるから本軸にある物語が一層美しく見える。
話自体は、作品作りに行き詰まった作家先生が訪れた離島で青年と出会って、という流れです。
とても好きなのがね、
この作家先生に作品作りへの熱が戻ってくる様子なんだ。
とても自然なのに、その熱量が戻ってくる瞬間が見えるように分かる。
青年の若々しい熱のこもった作品に没頭していくうちに、行き詰まった自分の中に風穴があいて
新しい風と熱が吹き込んでくるこの様子!
とても清々しくて力強いエピソードの筈なのに、何故か胸が締め付けられてしまう。
切ない訳でもないし、悲しくもないし、つらくもないのに。
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