ラムスプリンガの情景|吾妻香夜【全1巻】

時代は、70年代のアメリカ。
古き良き暮らしを保つアーミッシュのテオドールと、ダンサーの夢を持ちながらも夢破れかけバーの店員しつつ身体も売ってるオズワルドの話。
もうこのネーミングからして堪らない。
ポーの一族を長年患ってるから「オズワルド」の名前にただただ単純に弱い。

なにしろ、一本映画見終わったかのような充足感に浸ることが出来る凄まじい情景描写の威力……!!!
モノクロの画面に色鮮やかな風景が見えるようなんだよ。
この余韻、この風景、浸るために何度も読み返してしまう。
優しくて、でも優しさを保つために容赦なく捨てられていくものもある「アーミッシュ」たちの見る風景が本当にたまらないんだ。

アーミッシュ自体、映画などの様々な作品のモチーフにもなっています。
アーミッシュは、不道徳とされることはしてはいけない、娯楽もいけない、そして怒ってもいけない。
これはむしろ修道士とか修行僧の生き方のようです。
人の善性を信じたいが故に、堕落要素をひたすら排除する方法をとってるもんね。

ちなみにアーミッシュの詳しくはこちら。Wikipediaより。

アーミッシュは移民当時の生活様式を守るため電気を使用せず、現代の一般的な通信機器(電話など)も家庭内にはない。原則として現代の技術による機器を生活に導入することを拒み、近代以前と同様の生活様式を基本に農耕や牧畜を行い、自給自足の生活を営んでいる

慎ましく穏やかに、そして厳しい戒律とともに暮らすスタイルというのは、
それ自体にとても強く人々を惹きつける力があるとも思います。
作中でテオドールの故郷であるアーミッシュの集落を訪れたオズワルドは、ありもしないはずの郷愁を覚える。
それくらい、人々の敬虔で善なる暮らしには強い力があるんだ。
私が「秩序」にとてもときめくから余計にそうなのかもしれません。
日々、規律を守っているのだという自負と共に、
穏やかに秩序の中で暮らしていけたら幸いであろうなと思ってしまうんだよ。
息苦しさよりも、その重みに安心感を覚えてしまう精神が根深い。

そして物語の根幹にもあるのが、この概念。こちらもWikipediaより。

アーミッシュは現代文明を完全に否定しているわけではなく、自らのアイデンティティを喪失しないかどうか慎重に検討したうえで必要なものだけを導入しているのである

現代文明を否定するが故の自給自足ではなく、
自己が自己たるために必要なものを「選び」、導入しているということ。
この姿勢そのものが、ラムスプリンガの情景を形作っています。

 

で、ラムスプリンガの情景がとても好きなのはさあああ
「生き方の物語」なところなんだよおおおおお。

物語中何度も繰り返される「選ぶ」こと。
自分のための決断や選択ってね、怖いよね。すごく勇気がいる。
誰かのためって理由を付ける方がもしかしたら余程楽なんだ。

恋のもとに選ぶこと、(作中ではそれは”素晴らしい呪い”と表現されます)
自分の見たい世界を自分のために選ぶこと、逆に”選ばない”ということを選ぶこと。
選ぶということはその他を選ばないということであって、
そのもっとも大きな象徴として描かれているのがアーミッシュでもあります。
外の世界を知るラムスプリンガを終えた時に、アーミッシュとして生きるか、アーミッシュを捨てるかを選ばされます。

敬虔で豊かな生活の賛美ではなく、夢を追うことへの啓蒙でもなく、
この作品から通して見えるのは終始、選ぶことと、変わることなんです。
その行き先がどこであれ、捨てるものが何であれ、そして捨てられないものが何だったのかであれ、
それを「自分」で選ぶこと。
何もかもがすべてうまくいくような魔法のような世界ではなくて、
何かを得たいがために何かを捨ててきた人たちの物語。
あとがきで、『ハッピーエンドながら少し苦味も残るような空気』と書かれているのだけど、
まさにそれ。それ。
オズとテオはふたりで新たな日に向かって進んでいくハッピーエンドでありながら、
二人の選択から外れてしまった人もいて、
幸福で明るくてほろ苦い感覚がしっとりとクるものだから、長編モノを読み終えたような余韻に浸ってしまう。
何だろうなこの感覚。青春映画を見終わったような感覚なのなかな。

私は「ラムスプリンガの情景」を生き方の物語として読んでいるし、
アーミッシュに純粋培養された天使のように純朴で素直な青年テオドールがラムスプリンガを通して人になる物語としても読んでいるし、
オズワルドが「誰かのため」から「自分のため」に初めて着地出来た物語としても読んでいるよ。
それが再三ながら圧倒的な風景の中で繰り広げられるんだ。
読み終えた後の充足感が本当に素敵なんだ。

 


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