ロマンスの箱庭|伊東七つ生【全1巻】
学校で「箱庭」制作の課題をしたり、部屋そのものにアイデアを描き出す作家と編集の話だったり、
友人からなぞのちからを写し取ってしまった占い師だったり、兄の暮らしていた灯台で手紙を紐解く青年の話だったり、
マジックと魔法の入り交じる遠くて古い村に暮らす少年たちの話が詰まってる短編集です。
目に見えて動くドラマを楽しむと言うよりは、彼らのいる世界込で楽しむような作品。
もうとにかく、画面の美しさが半端ない。
画面の美しさが半端ない。
大事なことだからもう1回くらい言っておきたい。
半端ない。
絵の上手さをあらわすような画力、も、もちろんなのだけど、
登場人物たちの居る世界の上に、彼らの見ている世界がすごくキレイに乗っかっているんです。
ステンドグラス越しに外を見るような、確かにある風景の上に色が鮮やかに乗っているような感覚。
しかもその世界の乗せ方がすっごくうまい。すっごく良い。
フラスコの中に生まれる箱庭や、真っ白な部屋の中に溢れるアイデアたち、。
その傍らにはランプがあって、クロッキー帳にしたためられるラフ画があり、
ファンタジーがいとも当然のようにある。
何故出来るのかとか、どうやっているのかとか、そういうものではなく「ただある」。
こういう「ただある」ファンタジーの姿、大好き……。
で、
この「傍らにただあるファンタジー」の魅力が、過ぎるほどに詰め込まれているのが
表題作ロマンスの箱庭。
フラスコの中に! 箱庭が! フラスコに!!!!
っていう時点で何かもうすでに私の中の小学生男子が騒ぎ立てる。
模範生のように小奇麗なフラスコ作ってたのを見破られてしまった主人公と、
創作活動は溢れるからしてるんだっていう天才肌にも程がある少年の、
夜のお散歩風景がとてもとても美しいよ。
そして一番心惹かれているのは、「光達距離」。
人との関わりを避けてきた灯台守が亡くなり、
灯台守の弟と、灯台守と文通をしていた来訪者が台風の中で過ごす一晩のお話。
多分、こういう限られた空間の中で行われる話に私がすこぶる弱いんだと思います。
そこから馳せられる思いが多すぎて、もう堪らない。
手紙、っていうツールもすごく好き。
滲むものもあれば、ひた隠しにしているものもあって、隠しているからこそ見えてしまうものもある。
伊東七つ生さんの作品にあるこういう小道具を通した表現がすごく好きだと思う。
客用なんてない一つずつの食器に、大切にファイリングして整理された手紙たちもそうだし、
フラスコフラスコ騒いでたロマンスの箱庭も、
フェイクやレプリカでもあるフラスコの中に描く必要があるのは「本物」であるっていう、この扱い方。
堪らん。堪らん。
ロマンスの箱庭のとても好きで、とても美しいと思うところは、
この画面上に描かれる世界の美しさだけではなくて、
それが各々の登場人物が持つ世界であるということ。
そしてその世界が、展開としてもビジュアルとしても触れ合う瞬間が描かれているところが最高に美しいと思う。
もう再三言うけど、本当に美しいんだよ世界が……。
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