僕らの食卓|三田織【全1巻】
なかなか複雑な家庭環境から人と食事するのが苦手になってしまった豊くんと、
こちらもなかなかヘビーな家庭環境を抱えている穣くんと最高に可愛い弟・種くんの食事風景のお話。
僕らの食卓でボロ泣きして、勢いで三田織さんの作品をいくつか買ったんですが
どの作品にも「幸せになるんだよお!!!!!」っていう力強さすら感じて、もう何かすごく安心して読める…。
大丈夫、みんな幸せになるんだ……。
当作品とは離れてしまいますが、別のデビューコミックスに収録されていたデビュー作で確信しました。
この作者さんは、どこまでも幸福につながる話を描く人だ。
色々ダダ漏れさせてるけど、生活風景や食事風景というのが、とても好きです。
グルメ漫画ではなく、営みの中で描かれている「食事」がすごく好きです。
なので正直、その営みの中なのであれば、食べてるのが霞だろうが土だろうが別に構わんのです。
作中で描かれる暖かい食事風景と、暖かい食事を通して仲良くなる様子もすごく素敵なのだけど、
何が良いって、細かく散りばめられた「ちょっとしんどい」の描写。
幸福な話を描く作者さんだ!と力強く言い放った後であれなのだけど、これがすごく良いんだ……。
絶望的な何かではないのだけど、「ちょっとしんどい」っていう絶妙な塩梅。
豊くんも穣くんも、どちらも悲しい体験をしてきた上でそこにいて、
今も物凄く悲しいということではないけれど決して癒えきった訳でもなく、
でも変わり続けていく。
頑張って乗り越えたり、忘れたりするのではなく、本人が少しずつ変わっていくことで
そのことばかり思い出したり、執着しなくて良くなる。
すごく良い意味で、諦めて手放す事ができる。
ちょっとしんどい の箇所を丁寧に埋めてフォローしていくような優しい描き方がすごく好きだと思う。
本当にちょっとした言葉で救われていく姿が愛しい。
僕らの食卓のとても好きなところは、この幸福へ向かうためのステップがとても丁寧に描かれているところなんだ。
このステップが食事を通して描かれているのがすごく良い。
分かりやすい、というとすごく身も蓋もないのだけど、
頭ではなく身体で知っている感覚でもって理解出来る描かれ方なのが、すごいと思うんだ。
たとえばいつもの食卓に、新しい誰かが居て、新しい何かがあって
いつもとは違う何かが自分の中に入ってくる感覚が新鮮で少し心地良かったり、
疲れている時の食事は「でも何か食べなきゃ」ってなることだったり、
ぽっかり空いた淋しさは意外と埋まらないってことだったり。
そして最高に好きなのが、幸福を享受する決心が描かれているところ。
幸福を得たら、いつか失う日が来てしまう。
その恐怖を吐露した豊くんに、奥さんを亡くした穣くんのお父さんが語ってくれる話が、ものすごく良くて、
いつもここでボロ泣きしてしまう。
忘れるでも前を向くでもなく、抱えて泣きながらでも良いじゃないかと言う姿勢に、そりゃもう泣かされる。
もうほんと、ほんと、何だこの優しい視点、やめろよ、泣いちゃうだろ……。