リンゴに蜂蜜|秀良子【現在2巻】
秀良子さんは作家買いしつつ追いかけています。
元からゲイで臆病な夏樹さんと、謎のパワフルさを持つ年下コマノ君のじんわりくるお話。
隠れてキスをしたり、こっそり手を繋いでみたり、そういう可愛い雰囲気と空気感に満ちてます。
で、可愛いふたりの「りんごとはちみつ入りカレー」と共に収録されている
【世界の終わりのなつもよう】
これが大好き。
10年越しの再会を果たした、何となく冴えないふたりのお話。
いいよなあ、学生時代のキラキラした感じと、
何者にもなれないまま10年を過ごしてしまった感じと、
この独特の眩しさも、独特の気だるさと、夏の雰囲気にすごく合うんです。
世界が終わってしまうから、と夏に突然訪れてきた高校時代の同級生。
世界が終わってしまう前に、君に会いに来たというこの動機の純粋さよ。
でもこの純粋さは決して、キラキラしてた学生時代には持ち得なかったものなのだろうとも思えてしまう。
未来しかなかった時代から、未来と日常の境目が段々無くなってきた生活を送るようになって
初めて知るようになった感覚なのだろうと、ついつい思ってしまう。
学生時代ってもうそれだけで眩しいもの。
万能感あるもの。
だからついつい、そういうものも求めてBL漫画あさってしまう。
閑話休題。
この作品の一番好きなのは、夏の幻想感と、幻想から覚める瞬間の瑞々しさと切なさ。
夏が近くなると夏画像スレが乱立するじゃないですか。
真っ青な空、白くて力強い雲に、むせ返るような緑の野原と、山々。
群青の夕暮れに浮かぶ提灯、祭り囃子、カナカナの声。
本当に見たことはないのに夏を思い出すとまるで幻想のような風景だけが浮かぶ、あの感覚。
小説家志望のまま芽が出なかった、夏の憧れの象徴でもある宮脇くんと、
その夏を追いかけて10年前のまま止まっていた高木くん。
高木くんがまとっているのは、まさにあの夏の雰囲気なんです。
またこの『世界の終わりのなつもよう』は、タイトルにあわせたモチーフの扱いが最高なんだよ。
終末論にいても立ってもいられなかった高木くんが10年前の夏を引き連れてやってきて、夏を満喫して、
そして夏と言えば台風。
突然やってきた高木くんも台風と言えなくもない。
10年前の夏は雨雲とともに台風が全部連れて行って、終末論は新たな日々を連れてきた。
嵐の中の会話、
「でもお前も ずっとそこにいたら だめなんだよ」
で、いつも泣かされてしまう。
えろは皆無な作品なので、濃いBLを求めてる人には物足りないかもしれないけど
読後の爽やかさがすごく良いと思うんだ。
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