百草の裏庭|青井秋
青井先生の穏やかな人外交流をひたすら心穏やかに噛み締められる作品。
森の奥に済む大きくて角の生えた紳士と、彼に助けられて十年・妹の代わりに人身御供の覚悟を決めてた青年のお話。
彼らの様子を穏やかに、えーと分冊で2冊分だから、23P+26Pで描かれています。
もう3巻あったら単行本になるんじゃないですか、単行本になるんじゃないですか!?(軽率に財布をあけながら)
→ なりました。単行本になったのがこちらです!
人外交流の素晴らしくて好きなところってとてもたくさんあるんだけど、私が特に好きなのは「文化差」。
姿形の違いがあって、それゆえに異なる生活習慣や風習があってそうして生まれていく文化や習慣・風習の差。
そして違うところがあるから生まれる「同じこと」の際立ち方。
似ているのに「違う」ところがあるとめちゃくちゃテンション上がるし、
(そしてそれは個体差や個性より、種族や生活で育まれた根っこの部分に近いほど好き)
「違う」のに似ているところがある時もめちゃくちゃテンションが上がります。ちょろい。
百草の裏庭は、その「文化の差」と「同じこと」がめちゃくちゃ優しく描いてあるんだよ! 好き!!!!
まず大きな姿の差があって、青年から見た異形の紳士はそれこそ異形も異形で、
大きな角に黒い瞳、伸びた爪の姿は暗い森で見たらそりゃ驚くよ。
助けられたら代わりに何かを差し出さなきゃならないと思うよ。
本当はこの時点で二言三言、会話をしていたら避けられた誤解ではあるんだけど、
またすごく好きなのがね、青年の反応はどちらも優しさによるものなんだ。
妹を助けるために自分を差し出す覚悟を決める優しさ。
その覚悟が、彼を人食いの異形と決めつけてしまったのだと知って謝罪する優しさ。
優しさがね……相手を決めつけてその心情を長いこと隠させてしまっていたところも実はとても好き……。
異なることを良しとも悪しともせず、「違う」っていうただそれだけを受け止められる優しさがすごい好きなんです。
違うから少しずつ互いの合う場所を探していける。
ひとつひとつ、答え合わせとは少し違うかもしれないけど、相手を知って自分のことを知ってもらって、
違うから行われるこの丁寧なすり合わせの様子がとても対等なんだ。
またこの紳士がやたら紳士でさ!!!!!!
あ、ギーゼルさんって言います。青年はマルセル君です。
森の奥でお友達ほしいなと思いつつひっそり暮らしてた異形の人なんですが、
ギーゼルさんの紳士っぷりって多分本人の気性や性格も大きく関係はしているんだろうと思いつつ
暗い森の中でひとり読書に耽りながら醸成されていったものなのだろうなと思えるところもすごい好き。
2階構成の書庫のシーンがあるんですが、
この圧倒的な書物量の中から易しい本をすぐに見付けられるとこから勝手知ったる書庫なのも分かるし、
勝手知るほど書庫を知ってるってことは、それだけ孤独な夜を本を読みながら過ごしたのだとも思えてしまって胸が痛い。
お友達出来て良かった、本当に良かった。
人外交流を見ているのが好きなのは、
個体の持つコンプレックスや同種族の中では”出来ない”と嗤われてしまうようなことに、違う視点を持てるからなのかもしれない。
それが事実であっても、事実以上の何かなんてほんとは無いんだよな。
別の価値観を持つ別の彼らから見ることでやっとそれが信じられる。
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