同級生|中村明日美子【全1巻/シリーズ有】
何度か感想を書こうと思って、その都度挫折していた同級生。
もう触れるべきなのか。この金字塔に。
いまさら触れるべきなのか。この名作に。
確実に通るだろ、中村明日美子の道は。
商業BLを買いあさり始めてしばらくしてから「そろそろ知るべきでは」と手を出した作家さんです。
噂に違わず凄いすね。中村明日美子さん。
実は中村明日美子さんの作品って、ウツボラで触れたのがはじめてで
このもはや蠱惑的ですらある美少女に惹かれたのがきっかけです。
この閉塞的で逃げ場がないような作品の印象があまりにも強すぎて、
同級生の可愛らしさのギャップに逆に慄いていたのが私です。
だ、大丈夫? 何か突然死体とか出てこない? 妖しい微笑とか湛えてない?
今、Rentaさんで「卒業アルバム」って総集編みたいな作品も出ていて、
値段に怯んでまだ購入出来ていないんですが、もうこの表紙だけでこみ上げるものがある。
なんだろう、同級生のこの表紙だけで込み上げさせる力は何なんだろう。
ってね、感想書こうと思って挫折してる間もずっと考えてたんですよ。
個々のエピソードがどうとか、あの独特で美しいひとめで分かる繊細な画風も、
何かもうそういうものも含みながらそれとはまた別にあるのが
強烈な「懐かしさへの憧憬」なんですよ。
登場人物が高校生の作品もいくつか持っているし、どれも等しく「うあー高校生まーぶしー!」ってなるんだけど
同級生を読んでいて感じる「うあー高校生まーぶしー!」っていうのは
実は読んでる時よりも、読み終わってしばらくしてから急によみがえってくるんだ。
読んでいる最中に感じるものの他に、思い出した時に強烈に刺さる何かがある。
実際読んでいる途中には「何がここまで刺さるんだろう」っていう答えは出てこなくて、
少し離れてふとした時に表紙を見たり、少し読み返したり、思い出したりした時に強烈に刺さってくる。
そんで多分この感覚は、私がリアルタイムで学生の頃だったら味わうことは無かったんだろうと思う。
当時聞いていた音楽がふとした時に耳に入って、何故か懐かしさより前にダメージを受けたことってないですか。
少し弱った時に耳に入ると、まるで抉るようなダメージを与えていくあの攻撃力。
懐かしさってのは、ものすごい凶器なんだと思ったよ。
そしてその凶器を持ってるのが同級生なんだ。
別に当時に戻りたい訳ではないし、自分の当時なんて思い出して愉快になるようなもんでもないんだけど、ただその時期まるごとに向ける懐かしさや憧れに似た感情ばかりが物凄く揺さぶられる。
多分これは中村明日美子さんのあの繊細な絵柄も手伝って
全体的にとても「思い出」めいた印象を受けるからなのかなとも思う。
そしてそれは「自分の思い出」めいた、というよりも、「思い出に対する郷愁や憧憬」のような、
もはや偶像崇拝しているように眺めている「かつての思い出」が映像化されているかのような絵柄と雰囲気だから、より一層。
とても面白いのは、これもう自分の体験とか経験に基づく感覚じゃないんだ。
ではなく、思い出というキーワードに連結してしまってる懐かしさが引きずり出されるんだ。
作品で描かれているエピソードもね、
同級生で出会って、近付いて反発して、そんで次の一歩に進んでいくっていう
ひとつひとつはきっと今となっては多分そう目新しいものでもなくて、
設定だって「同級生のふたり」っていうとてもシンプルなもの
なんだよ。
でもこの作品が金字塔としてまるで原点のように根深く私の心のどっかに根を張ってしまうのは、
この凶器みたいな懐かしさを喚起させられてしまうからだと思うんだ。