仇椿ゆがみて歯車|吹屋フロ【1巻】

う゛ぅ゛……………っ
もう完全に語彙力のないものになってしまう……。
時代は江戸の寛永期。ジャンルとしては時代ものBLです。
中でも仇討ちがメインテーマとしてあります。
国も家族もすべて無くして人斬り稼業の過去を持つ間宮さんと、
かつて間宮さんに斬られた父の仇討ちをするために弟子入りをしてその機会を伺う一馬さんのお話。
読みながら浮かんだ単語が「仇討ち両片思い」だったもん、何でこんな頭の悪いキャッチコピーしか浮かばないの。
だってもう仕方ないじゃないか、憎くて愛しいが全部詰まってる。
仇討ちに訪れてるものだから目下目的は間宮さんを殺すことで、
でも父を斬ったであろうその剣の美しさに惚れてしまう様子だとか、
間宮さんの情の深さが垣間見える様子だとか、憎むべきなのに情が湧いてしまうとこだとか
諸々ほんとじんわりほだされてしまう距離も好きなんだけど、
いちばん好きなのって一馬さんの正体バレがかなり早いところかもしれない。
一馬さんの正体バレと確証が早いから(一馬さん本人は初っ端から仇討ちに来たって明確に言ってるんだけど)物語の主軸がより一層『斬ろうとする者』と『斬られるはずの者』になっていきます。
この『斬ろうとする者』と『斬られるはずの者』になる構成の何が素敵かって、
今『斬られるはずの者』にいる間宮先生が、かつては『斬ろうとする者』で一馬さんのお父さんが『斬られるはずの者』である構造との比較が出来てめちゃくちゃ楽しい(※不謹慎)ってところだよ!!!!
かつての間宮先生は一馬さんのお父さんである武雄さんに命を救われて、
間宮先生の持つボロボロに研ぎ澄まされた刀を鋳直して、本人の怪我を治してキレイにしてくれた。
でも結局他に行き場がないまま斬ってしまう。
鋳直してくれた刀をもう一度ボロボロにして本人もまたボロボロになって、やっとそのボロボロになった輪郭が少しだけ和らいだような時に一馬さんがやってくるんだ。
この斬ってしまった間宮先生があるから、一馬さんが斬るのか、斬れるのかっていうところの最終局番がめちゃくちゃ盛り上がるんだ。
間宮先生はいつもどこか斬られて当然だと思っているし、仇討ちをさせるべきだと思ってる。
一馬さんは斬らなければならないと思いながら、先生は斬れないと思ってる。
この終着点や決着の付け方を、仇討ち御前試合にする筋の通し方がすっごい好き。
しかもこれ、恋心を隠した仇討ちではなくて、恋心も明かした上での仇討ちなんだよ。
仇討ちで、きちんと斬り合って欲しい人は是非読んで欲しい。
それはそれ、これはこれで筋を通していく様子がすっごい格好良いんだ……。
筋は通していくのにその内側には確実に培われた情がひたひたと満ちてる様子に胸を抑えざるを得ない。
間宮先生の余裕綽々な様子はあるけど、決して一馬さんを侮ってる訳じゃない。
かつて武雄さんを斬って、自らもう一度ボロボロにした刀で一馬さんと対峙する間宮先生の怖気すら漂う美しさ。
そしてそれらすべてを包括しての「いざ、おいで」の威力が凄まじい。
う゛ぅ゛……っ。
ページ数も400P越えで、これ普通なら3巻構成とかになるボリュームだよ。
そんでそのページ数も、全部噛み締めながらもあっという間に過ぎてしまうんだよ……。