月食奇譚|春泥【全1巻】
1920年の小説家による少年連続殺人から連なる因縁のお話。
表紙を裏切らない実に血みどろのお話でした。
BLを期待して読むよりも、
【表紙】【1920年】【少年連続殺人事件】にピコーン!した方向けだと思います。
すげえの読んじゃった という感想が真っ先にきました。
中村くんがあまりにも可愛くって真逆の雰囲気のものを選んで買ってみたら
これまた物凄い真逆であった。
中村くんほんと可愛い。可愛い。
妖しくて蠱惑的な少年と、前世今世の宿縁で恋心と憧憬と殺意と、両極端なのか何なのかすら分からない執着に駆られる少年のお話です。
レビュー一部に江戸川乱歩の名前が上がっていたけど、話そのものの雰囲気はまさにそれだと思います。
伝奇ホラーものというのかな。血生臭い流れが、血生臭い幻想の雰囲気で描かれている。
殺人事件が背景にあるけれど、殺人事件そのものも犯人探しがどうとかそういうものでもなくあくまで発端や動機の一部に過ぎません。
(何しろ舞台は現代、事件があったのは1920年)
そして連続して殺された少年たちも、復讐のために転生してきた少年たちも
全てはラストで1:1になるための重要な伏線なのが良いんだよなあ……。
で。
ここまで血みどろなのに、エンディングが妙に心地良いんだよ。
このエンディング数ページがすごく好き。
ハッピーなのかバッドなのか問われるととても困るんだけど、メリーバッドエンドが一番あてはまるのかなあ……。
こう、たまに後味の悪い作品とかも読みたくなる時があるじゃないですか。
怖い話ではなくて、後味の悪い作品。
誰も救われなかったり、一番の善人が理不尽に割を食うような作品。
月食奇譚も、憧れを利用して殺されて、報復の記憶と衝動だけひそかに持って再び生まれてきた少年たちが哀れだし、報復を成就させたとして当の本人はまた生き返ってしまう。
そしてその報復が成功したことすら、転生した少年たちは忘れてしまう。
殺して殺されてを繰り返してるのに何も生まないし進展もしない。
要素や経過だけ見るならものすごく後味が悪いものになりそうなのに、エンディングは妙に爽やかで、心地良いんだ。
エンディングの何がここまで心地良いかって、少年を殺して報復を受けてきた山田くんがこれまた一切の贖罪なんてしてないってトコですよ。
一切申し訳ないなんて思ってもおらず、当然のように後悔もしておらず
与えられる恐怖にはじめて自分の幸福が湧き上がってくる勢いから
いっさいがっさいが全てキレイに消え失せるところが、すっごく好き。
ここまで見事な心中を見せられてしまうと、もう清々しさしかないよ。
積み上げてきた何かが唯一報われたような見方も、しようと思えば出来るけど
でもこれどちらかと言うと、重ねてきた呪術がようやく完成したという感じが近い。
ただやっぱり血みどろだし、エンディングも解釈は読者に委ねる形式だし
何かもう いえーい!君に会えて良かったー!(輪廻復讐) って作品なんで
人を選ぶだろうなあとも思います。