社畜が恋をしてみたら|今井ささる【全1巻】
会話がずば抜けて好き。
うまいっていうとどこから目線だよみたいに見えて困るんだけど、上手いんだ、上手いって表現しか出来ないんだ。
何がどうって表現出来ないけど、めちゃくちゃ上手い。
この自然でコミカルでテンポの良い会話の力は何なんだ。
飲み屋で喋ってる二人を延々と見ていたい。
あまりにも等身大で自然で、読んでいてすごく気持ち良い会話なんだよ!
社畜の服部くんと、飄々とした年上の伊賀さんのおはなしです。
飲み屋で偶然出会って伊賀さんがぐいぐい来つつ距離を縮めて…という感じで大まかには進んでいくのですが
場面の転換があまりに匠なのか、
しっとり読みたいところはしっとり浸りつつ、でもすごくテンポが良くて充実して楽しめるんだ。
こちらの作品は無料の範囲でいくつか読めるエピソードがあって、購入決めたのがこの会話なんです。
「徹夜明けで頭働いてないんで言っちゃいますけど
いまこの瞬間だってほんとは
伊賀さんの説教聞くよりシャワー浴びてとっとと寝たいし」
この会話のすごく好きなところは、あまりにも等身大過ぎるところなんだ。
服部くん社畜過ぎて伊賀さんとの時間をあまりにも取れず、それを年上の伊賀さんに正座で説教されているシーンで出てくるんですよ。
正座説教て一種の漫画的な記号じゃないですか。
力関係や状況を少しコミカルに伝えるような記号。
その記号の中に、『ほんとは説教聞くよりさっさと寝たい』っていう生々しさがある会話が出てくるこの温度差にすごい心惹かれて買ってみたら、記号と等身大があまりにも絶妙に入り交じる会話を全編通して楽しめたっていう訳です。
好きな会話はもうひとつあって
伊賀さんのご実家で飼ってたわんこが亡くなりそうだということで急遽帰郷したふたりの帰り道の会話。
これは会話というかモノローグなのだけど。
亡くしたわんこの代わりという訳じゃないけれど、伊賀さんが寂しくないように努力しますと健気な服部くんに
ジョークのように「好き♥」と懐く伊賀さんなんだけど、
その数コマあとに『無理だよ』って一刀両断するこのテンポ!
会えない寂しさにも慣れてるなんて、ばかばかそういう寂しがり屋の大人大好き。
伊賀さんのご両親もじわじわと不仲で離婚も過ぎっていたりするものだから余計に、
ずっと側にいるだとか、病める時も貧しき時も支え合うことの無謀さだとかも間近で見て知ってる。
それなのに何故守れない約束をするんだろう、なんてひとりモノローグする伊賀さんに
でもそういう約束をすること自体が、ある種の約束なんだろうなんて勝手に受け取ってこちらはこちらで一人答えたくなってしまう。
伊賀さんが家族と交わす長崎方言の会話であったり、
かしこまるとビジネス用語が飛び出す服部くんの話し方であったり、
これ私の性癖でもあるんですが場面場面に応じて話し方が変わるキャラクターってすごい好きなんです。
一人称が変わったり、口調が変わったり。
キャラクターがぶれるということとは真逆の、キャラクターが”そこにいる”からこそ変わる口調。
その新鮮さとか存在感が存分に楽しめてしまった……。
二人が居酒屋でだべってる会話を延々聞いていたい……。
何なら服部くんの同僚の皆さんがいても良い。飲み会しようぜ!