HEARTLESS|ニシンマスミ【1巻】
吸血鬼(挨拶)
いやもうこれ表紙が。
表紙がさ、こんな美しい血管の描かれたコウモリの羽根があったらもう仕方ないじゃないか。
ふええ……すべすべした繊毛の手触りまで分かるようだよお……。
実際に主人公になってるのは吸血鬼ではなく(でも似た種族として扱われてるのかな)、吸精鬼と呼ばれるものです。
表紙を見たまま、白い羽根をもつあの子です。サキュバスです。
高い幻惑能力をもって、物理的に人を食べますムシャァバキバキ。
そして「情夫」と呼ばれる人間を連れ歩き、死んだらまた別のを連れ歩きます。
今連れられている情夫がマヌエルさん。
主軸はこのふたりと、
もうひとつ、吸血鬼狩りをする狩猟クラブにいる人心を読める青年パトリック。
パトリックの……恋人なのかなあ、支えではあるような、そうでもないような……オズモンドさんがいます。
1巻の段階だと
・吸血鬼はいる
・人狼なんかの他の魔物もいるし、時折彼らは人と所帯を持つ
・彼らを狩る人々もいる
・大義よりも「狩猟」そのものを楽しんでいる風がある
と、幻想的な吸血鬼ものというよりは、UMAとUMA討伐隊という感じが強いです。
途中途中で、白コウモリの子と魔物が語り合うシーンがあったり、
マヌエルが解放してしまった魔物たちの足跡がぬかるみに連なってるシーンがあったり
「向こう側」と「こちら側」の境界線ジャストにいるような雰囲気が濃い。
超常的な存在がある世界観がベースにあるけれど、
その超常的な力を発揮しているのは今のところ主人公にあるサキュバスだけで、
他はすべて人間たちの間で話は進んでいきます。
面白いのは、出てくるキャラクターは皆それぞれ何かしら欠けているんだ。
マヌエルは記憶がなく、十年以上をサキュバスの「母さん」と逃避行のような生活をしているし、
パトリックは逆に人心を読む能力を持ちながら父親には疎まれ、
パトリックの恋人・オズモンドは下半身不随で車椅子生活をしている。
またパトリックが良いキャラクターしてるんだよなあ。
マヌエルを救えるはずだとしているけど、救った先に迎え入れるのは自分の猟団で、そこにはオズモンドもいる。
パトリックからは優しさや善性よりも哀れみを強く感じます。
マヌエルを白コウモリの君から救いたいとは思うのに、
眼前でボコられてるマヌエルを自分の身を呈してまで物理的に助けることは出来ない。
自分の意思はあるのだと思いたいのにそれを実行しきれるまでの意志には至れない。
そういうの好きなんだよおおお。
ジャンルはBLなんだけど、マヌエルさん結構頻繁にボウガンで射られたりボコられたりしてるし、白コウモリのナルコくんに至っては上半身の剥製にされかけるし(丁寧に口と目も縫われて)元気なら元気で内臓バキムシャアしてるし、そんなこんなが表紙の通りのあの筆力で描かれるので苦手な人はちょっと注意が要るかも。
過剰に痛々しい表現ではないものの、マヌエルさんがずっと(物理的に)不憫でパトリック君は(精神的に)不憫……。
表紙に明記されてないのがちょっと不安なんですが、多分続刊、だと、思う。思いたい。
主要登場人物と世界観、過去がちらっと見えてきたあたりで1巻が終わってます。
でもこれもしかしたら青年誌とかに移籍もあり得るような気がするぞ。