千|岡田屋鉄蔵【現在4巻】
和風で、ひたすらに渋い。渋い。堪らん。
契約者の魂を食らう代わりに願いを叶える五感も朧気な座頭・千載さんと、なんやかや一緒に旅してる剣豪の草薙さんのお話。
現在4巻まで出ていますが、契約者との個別エピソードが連なる一話完結型です。
なので一冊一冊、話としては完結しています。
もう 千載(CV.石田彰)って書いたらその魅力が伝わるんじゃないかと思う。
果たしてBL枠に入れても良いものなんだろうか。
ってくらい、硬派に時代物を背景にした作品です。
千 は、千載さんと草薙さんが主人公ではあるものの、そのポジションとしてはストーリーテラー役が近い。
話の本筋であり、魂と引き換えにしてでも叶えたい願いを持っているのは、各話に出てきている契約者たちです。
またミステリアスながら人としての本筋はしっかり持っている千載さんと、
男気に溢れる草薙さんが見てて心地良いったら。
勧善懲悪めでたしめでたし!とまでは言わないし、結果的に魂食われてしまうので真っさらなハッピーエンドは少ないものの
それでもなお叶えたい願いがあり、それが成就されたのだという各話の読後感はじんわり暖かくて、とても切ない。
著者の岡田屋鉄蔵さんご自身がもともと歴史漫画を書かれていたとのこともあり、
辰に八咫烏、天狗に夜叉、力士に土蜘蛛、輿入れの暗躍と
隅から隅までみっちりとした土壌の上にある感覚があります。
というか短編構成ながらひとつひとつ、お国と人物の関係と背景を作って調整してってすごいなほんとこれ。
FOOOOさすが役人だ!どいつもやり口が汚いぜ!FOOOOO!!
さて、この千シリーズの中、好きな話は多々あれども、ほんと多々あるんだけど、
一番好きなのは【 千(1) 長夜の契 (上)】に収録されている第二話。
神様の踊り子と恋に落ち、神様の怒りに触れ、幾度に渡る輪廻の中で悲恋を繰り返してきた楽師と踊り子のお話です。
第一話もすごく良い。すごく良いんだよ。
主軸の登場人物が健気な主従で、わずか1ページの笑顔で私は泣いた。
天狗の話もすごく良かったし、海賊の話は実に切なかった……。
魂が救われるような救われないような太陽属性の登場人物に泣かされるのは相撲取りと絵師の話です。
そもそも自分の魂をかけて、成就した暁には自分の存在が周囲からすべて消え失せることを承諾してまで
誰かのために願いを懸けるのだから大抵が切ないんだ。
その中でもこの第二話は、千載さんの境遇や立場の片鱗が語られるちょっと貴重な回でもあります。
で、このエピソード何が好きって、ラスト!
悲恋を繰り返し、楽師は常に置いていく苦しみを背負わされ、
踊り子は常に置いていかれる苦しみを背負わされ忘れることも許されない。
その輪廻を強制的に断ち切ることが出来たものの、それは今生の別れに他ならず
ってまあ御託はいいや。
ラストのモノローグ・会話のこの軽妙さ!
落語のオチのような、小気味の良さ!
軽妙ではあっても軽々しいものではなく、それまでの話を知っていればそれが軽口でないことも分かる。
でも何も知らない人には冗談にしか聞こえない。
この言葉選びの妙、すごく好き。