≠ ノットイコール|池玲文【全2巻】

著者     池玲文
発行     リブレ

テーマでぶん殴りに来た。
アウトかセーフか「あ、ああ〜〜……!」て読者が悩むところまで全部引っくるめてぶん殴りに来てた。
勇気あるなあ。

先に設定だけ書いておくならば、タイムスリップの近親ものの話です。
義はつかないです。ガチの肉親です。


で、冒頭の「あ、ああ~~……!」に戻ります。
BLものの王道でもある性別の壁と、もうひとつの壁・肉親(しかも親子)を設けて
でもそれらはまったくとして盛り上がり要素としての背徳感には繋がっていないし、
むしろ足かせでしかない描き方がされています。
父親の方は、極めて常識的に(というよりも普通に)生きたいともがいて自分なりに出来ることを精一杯やってきたし、
息子の方も自分の感情が世間的に認められないことは重々理解しているし、
自分を育ててくれた母親への後ろめたさも抱えてる。

でも微妙な違いとして、テーマは背徳感ではないと思うんだ。
禁断の恋そのものなんだけど、その背徳感を楽しむものではない。
少なくとも楽しめるような描き方ではなかった。
だから同性の葛藤や血の繋がりによる背徳感を楽しみたい人や好きな人には少し違って見えるかもしれない。
一般的には正しくはないことと理解した上で、自分が間違っていないこととの妥協点を必死で探してる。

何が正しいか、どれが是なのか、
マクロとミクロでは見えるものも選択するものも違って当然で
そのどちらの視点にも揺さぶられながらの
タイトル、ノットイコールな訳で。

改めて考えるとすごいんだよ、このタイトル。
作中の二人はイコールなんだよ。双方向に愛情も望みも一致してるイコール。
でも明確に、「作中のふたり」と「それ以外」はイコールではないと言い切ってるんだ。
それ以外とはつまり、私もだ。読者も含めてだ。
応援させてくれないんだよ、このふたり。
応援していいのか、そこを揺さぶってくるんだよ。
これは応援出来ないキャラクター性や、世間一般の常識的な云々ということではなくて、
彼らの希望や願望と、幸福のすべてがきれいに繋がってはいないんだ。
片方を取れば片方は抜け落ちてしまう。
でもそのどちらもが進むべき道のようにも見えるから、簡単に応援が出来ない。

設定自体がすでに性癖とか地雷に隣接してるから、そもそもダメな人は手にすら取らないと思うけど、
でもそれすら作品として物凄く「アリ」な在り方なのがすごく良いと思う。
彼らを受け入れられない、それも「ノットイコール」のひとつ。
ね、このタイトルすごく良くない?

で、

ノットイコールの好きなところは、この設定から生まれるテーマ性の高さ。
再三書いてしまうけど、主軸は禁断の恋に向けられてないんだ。
テーマとして感じたのは、集団と個であり、集団からの逸脱。
属している何かから弾かれたのか、抜け出したのか、という点もあるし、
集団にありたい、というよりも独りになりたくないという願望。
それは明確な組織集団だけを指すのではなく、概念や理性、倫理や常識と呼ばれるものも含めて。

もちろん恋愛要素も含まれているし、これについてはまた後ほどねちねち語るけど、
描かれているのは恋というよりも、恋しがるの方が近い。
顔見て頬赤らめるような恋の仕方ではなく、思い出に向けられるような恋しがり方。

物語の展開は大きく分けて、三つくらいでしょうか。
過去、現在、未来。
恋してるのは過去。
めっちゃくちゃかわいい。君たちに幸あれと願わずにいられない可愛さ。
でもこの恋に落ちていく様子もすっごい丁寧に描かれてるんだ。
一目惚れなんかではなく、寄る辺ないタイムスリップ者だからまずは味方が必要だと近付くあの打算、素晴らしいと思う。

愛してるになってるのが現在。
でもしゃれならん時間も重ねられてるその格差の溝がとてもうまく描かれてる。
過去のある意味フェアな状態から一変したその重たさが、関係と相まって余計のしかかる。
ネタバレしちゃうけど、
タイムスリップした息子は連続した記憶の中で14歳の頃の父親と恋仲になり、そのまま戻ってくるんです。
息子側の記憶はすべて繋がって、昨日は隣に可愛い恋人がいたのに、今日は隣に居ない状態になる。
でも14歳の頃から時間を重ねてきた父親は違う。
14歳で恋に落ちた相手は突然消え失せ、タイムスリップしてきてたもんだから当時息子が存在してた証拠なんてもちろん無く、
連絡が取れないどころか自分の寂しさが生み出した妄想ではなかったのかとすら思えてしまう。
その絶望に似た寂しさを抱えたまま重ねてきた時間がある。この深い深い溝がとても良いんですよ……。

そして未来は何に繋がってるのかというと、
これもう少し読み込みたいんだけど、
静かに世界を閉じた。
すべて受け止めて図太く力強く生きていけるものではなし、かといって離れることももう出来ない。
諦め、というほどネガティブな響きにはしたくないけど、開き直れるほどじゃない。
甘美な秘密にすることも出来たろうに、どこか諦めに近いものが印象に残るんです。
倫理的には大幅に逸脱しながら、もうそうとしか生きられないんだ二人で生きていこう、っていう結末なのに、
何でこんなに後味が苦いんだろう。

またこの少し苦い後味が堪らないし、この作品の魅力はこの感覚なんだと思う。
前述した通り、ノットイコールなんです。
自分と、あなたは(或いはあなたたちは)違うのだ、という。
唯一イコールで結ばれた相手がいる喜びと、けれど世界は自分たちを理解などしてくれないだろうというノットイコール。
ふたりは何度でも、このイコールとノットイコールの間を行き来するんだ。
それがとても苦しくて、でも同じくらい幸いだから、見ているこちらはほろ苦い感覚を噛みしめることになる。

ノットイコールの面白さはテーマと設定がきちんと噛み合いながら進んでいくところにもあります。
ひとつめは前述した集団になりえなかった個と個の結びつきと、
もうひとつは愛。
確かに愛もひとつのテーマになっているのが、とても面白い。とても好き。
恋人同士の恋愛や親子愛とジャンルに振り分けきれないような、変化しながらも確かに多軸的に存在している愛情の形。
でも愛を描きながら、それを色濃くしてるのは寂しさなんだよな。
息子がまだ幼い父に近付いた「タイムスリップしてきた心細さを紛らわしたい」という理由のひとつ奥に、
父親に自分は望まれていたのか、っていう自分の存在そのものへの疑問がある。
14歳で取り残された父は、自分しか知らない青年の面影を青年の母に見出し、寂しさを忘れようとする。
お互いに繰り返される「自分のことは好きか?」の問いの意味の見せ方だとか、
その寂しさや相手への思慕が、確実にこの道にしか繋がっていなかったことが分かるのが本当に好き。
相手を求める理由が愛だけではなく、影のようにずっと寂しさがつきまとう。

狙いが書かれたネタバラシのような後書きが二巻の真ん中にあるからそれだけ気をつけるんだぞ。
ここまで全部書いといて今更だけどな!!!
あとタイムスリップものの素晴らしさの例に漏れず2周目がすっごい面白いぞ。


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